鳥海青児(1902〜1972)は「日本の油絵とは何か」について探究し続けました。
そして晩年、独自の重厚なマチェール(絵肌)を完成して、西洋文化と日本らしさを融合した独自の世界を作り上げました。
今回ご紹介するのは、その影響の色濃い1933年頃の「アルゼリー風景」です。
当時多くの日本画家は印象派に影響を受けましたが、鳥海は初めてのヨーロッパ旅行で、ゴヤに魅せられました。
スペインのプラド美術館に、ゴヤの「黒い絵」と称される絵があります。ゴヤは人間不信となった晩年に、家の壁面を14点の壁画で覆います。
鳥海青児は「黒い絵」は「生涯に決定的な影響を与えた」と語っています。
ゴヤの深い深淵に影響を受けた鳥海の眼には、当時のアルジェリアの港は、この作品のように映ったのでしょう。
その重く重厚な筆の流れや水の表現は、見るものをゴヤの深い深淵に誘い、引き込んでいきます。
この純粋に深く引き寄せられるような描き方に、何故かとても強く心を掴まれます。
こののち、鳥海はこの時代とはまた違った厚塗りのマチェールを作り出して独自の世界を築いていきますが、ゴヤに魅せられたこの時代があるからこそ、後の時代の深みも生まれてくるのです。
(文/青龍堂店主)
作品情報
作家:鳥海青児
作品名:「アルゼリー風景」
サイズ:24.1cm×33.1cm
ボード・油彩
留言