香月泰男のこの絵は、奥さまが使っていた軍手だと思います。
香月泰男は、シベリアから帰ったあと「厨房の画家」と言われていました。
奥さまの育てた野菜や台所の魚や食べ物などを、何もかも絵にしていたそうです。
ブドウをもらってきたら「味をみたらようわかる。ちょっと食べてみよう」と言って食べてから、絵を描いてたそうです。
奥さまの著書によりますと....
当時は自給自足のようなことでしたから、私も色々植えましたけれど、主人が青いトマトが描きたいと言えば植えましたし、うずらが描きたいと言えば飼いました。
そして子供が犬を拾ってきたり、鳩を飼ったりと、主人も家族も好きでしたから、動物から植物まで、私も一生懸命になって育てました。
主人が描きたくなるようなものは、私もおおよそわかっていますけど、「これを描きなさい」なんてわざとすれば、ヘソを曲げますから、ちょっとアトリエのへりにでも置いてあるようなふりをします。それを主人が見つけて、「これはいい」といって描いていました。
この夫婦のやりとりに、お互いの愛情の深さを感じますね。
この軍手の絵は、毎日毎日野菜を育てたり動物の世話をしたりして働いている奥さまへの、不器用なありがとうの言葉なのかもしれませんね。
(文/青龍堂店主)
作品情報
香月泰男 「軍手」1956年
27.1㌢×38.5㌢
紙 水彩 クレヨン
鑑定あり
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