岸田劉生の1926年の正月に描いた蕪図です。
この年の3月に鎌倉に移るので京都時代の最後の作品です。
中国の宗元画の画風で描かれた愛らしい蕪は独特の存在感があります。
ところで、この画賛(余白に書き込まれた文章のことです。)がなかなか読めずに苦労していました。
分叢尚托躬耕意匝地空留割據情
は中国の漢詩、しかも古文だそうです。難解なはずです。
この詩は、紫金草を謳うものだそうで
「紫金草は、ひと束ひと束で、諸葛孔明の辛抱と努力を表す
地面にいっぱい植えて、三国割拠したときの情熱を伝える」
という内容だそうです。
蕪の絵と内容が一致しないのでまた悩みましたが、次のようなことがわかりました。
紫金草は、中国では三国時代の軍師、諸葛亮孔明が軍隊を率いたときに、ムラサキハナナ(紫花菜)の柔らかい新芽を野菜として採取したことから諸葛菜と呼ばれるようになりました。江戸前期の辞書で、諸葛菜とは蕪(またはコールラビのようなもの)のことを指すとなっており、孔明が駐留時に蕪を植えて兵糧にしたという伝説とともに、諸葛菜の名が伝わっています。
なるほどこれで漢詩の内容と蕪図が一致しました。劉生はよく勉強していたのですね。
この頃は、蒐集欲が抑えられなくて、自らを江賀海鯛先生(絵が買いたい)と称していました。詳しいわけですね。
孔明の時代に想いを馳せて描いたこの蕪図。なんだかロマンを感じますね。
(文/青龍堂店主)
岸田劉生 「蕪図」
絹本彩色 26.2㎝×23.7㎝
丙寅正月
劉生の会鑑定
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